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こどものPTSD

こどものPTSDがおとなと異なるわけ

Cocorocare こと小林正幸です。

以前、こどもの「外傷的なできごと」は、おとなの場合と異なることをお伝えしました。「死んでしまうのではないか」と感じるほど恐いできごとは、こどもとおとなとでは違うからです。発育途中の子どもは、目の前のできごとを客観的に秩序立てて理解する能力が未完成です。また、体験も不足していますから、対処方法も十分に学んでいません。そのため、大人ではそれほどたいしたことではないことでも、「心的外傷的」になりやすいのです。

これは海外の方の著作の翻訳のときであったか、講演会のお話であったかで知ったものです。子どもの事例です。小学生の少年が言い張ることとして、自分がおかしくなったのはとても幼いときに宇宙人に拉致されて、それ以来なのだと治療者に打ち明けたというのです。

いつだったか、ちっちゃかったんで、よく覚えていないけど、僕は縛られたんだ。とても明るい光に包まれてベッドに仰向けになっていたんだよ。そこに青い宇宙服と青い帽子と目の部分には水泳のときのゴーグルを付けた大きな生物が5,6体現われ、僕を覗き込んだんだよ。「すぐ済むから」「心配しないで」とそいつらは声をかけて、嫌がる僕にマスクを付けて、「息を吸って・・・」と言われて。で、気を失ったんだ。・・・それから、僕はおかしくなったんだよ。

母親からの成育歴の聴取では、このお子さんは、3歳少し前に交通事故に遭い、命には別状はなかったものの、外科手術を全身麻酔で受けたそうです。この記憶は、そのときのことのようでしたが、本人には事故の記憶もその後の傷の回復期の記憶もなく、この記憶だけが残されていたとのことでした。

「完全著作権フリー(パブリックドメイン)」 手術中の医師たち

こどものPTSD症状でもこれと同じことが見られます。 つまり、こどもは、心の中で起きていることを客観的に秩序立てて理解し、表現する能力が未完成です。また、体験も不足 しています。そのため、こどもの場合は、大人のPTSD症状とは異なった表現になることが少なくないのです。とくにこどもに多く見受けられる症状は大人とは随分異なるものです。

どのような症状があると、PTSDと呼べるのか?

以前、「PTSD」と普通のストレス反応との違いをご説明しました。そのときは、米国の精神医学会のDSM-5(精神障害の診断と統計マニュアル第5販;Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, Fifth Edition)を元にお伝えしました。今回も同じ基準でこどものPTSDを考えますが。その内容も、DSM-5の「精神障害/不安症群とストレス因関連障害群/心的外傷後ストレス障害」を参考にします。

先に触れたように、年齢が小さいほど、こども本人には、心理的な不調を自覚できません。仮に自覚できても、幼ければ幼いほど、内側で起きていることを言葉で十分に表現できません。

以下は、DSM-5の4カテゴリーに含まれる症状で、こどものASDやPTSDの症状によく見られる症状をまとめたものです。別の専門的な言葉でそれを表現し、その意味を述べたものです。

たとえば、「解離」と呼ばれる心理症状(原始的な防衛機制の一種)があります。そもそも「解離症状」は、あまりに恐くて固まったときに、何も感じないようにすることで身と心を守る原始的な反応のことを指します。感情的に切り離されて麻痺した感覚を持つことがあります。これが「解離症状」の元の意味なのです。

上の一覧の中では、「解離症状」に相当するものに、「フラッシュバック」と「行動の自動化」、「感情の切り離し」、そして「解離性健忘」があります。DSM-5でのカテゴリーで言えば、「侵入症状」に属するのは、 「フラッシュバック」と「行動の自動化」 でしょう。「解離性健忘」は「 認知および気分の陰性の変化 」に該当します。

難しいのは、「感情の切り離し」です。それは、「解離」のもともとの意味を示すものですので、4つのカテゴリーの全てが該当するように思われます。その純粋な症状は、こころがここにあらずの状態で、ぼーっとしている状態を指します。何も感じないようにするとは、脳が働かない状態で、今、周囲で起きていることを感知しないことを指します。

そのときに、現実に引き戻すこと、たとえば、自分の名前を呼ばれたときに、ひどく驚くかも知れません。それが多く起きるとすれば、それは「 覚醒度と反応性の著しい変化 」の一つだと言えるかも知れません。

また、大人であれば、以上のことが多い自分が意識されれば、重要な活動における関心または参加の著明な減退が起きているように考えたり、他者からの孤立感または疎遠感があると思ったりするかも知れません。これらは、「認知および気分の陰性の変化 」です。しかし、このように自分の行動を客観化できるのは、発達上、10歳を超えないと難しいのです。子どもには難しい認識です。その背後で、持続的な陰性感情の状態(例,恐怖,戦慄,罪悪感,恥辱)を感じている場合もあると想像できるのですが、それは、その場でそのときの気分や感情を聞かない限り、そうだと認識できませんし、また、良い関係にない限りは、それを自ら語るのは難しいのではないかと思います。

一方、感情を感じないようにするという意味では、「感情の切り離し」は、「回避症状」のカテゴリーの一種だとも言えるでしょう。最大限、感情を感じないようにするのが「解離症状」なのですから。

では、「侵害症状」ではないのかと言えば、そうでもないのです。「感情の切り離し」をどのようなときに行っているのかと言えば、反復的,不随意的,侵入的で心を乱す記憶があるときであるかも知れないのです。ただし、感情を切り離しているときには、大脳新皮質はあまり働いていないので、何を思い出していないのかが本人には意識化できません。そのため、「侵入症状」として把握ができないのです。

さて、以下は、こどもの様子と、症状名との関連を示したものです。

ここで示されているこどもの様子ですが、これらは2歳くらいまでの幼児には結構見られることではないでしょうか?考えてもみてください。幼児は、まったく訳がわからない世界に、まったく未熟なまま放り出されたのです。泣く以外に要求の表現を持たず、毎日が新しい体験です。何が起きているのか、周囲に何がるのかが分からず、理解するための言葉もほとんどが分からない状態です。

日々、驚きがあり、それが何かを分かるプロセスは、冒険そのものです。こころを守るには「解離」は重要な方法ですし、嫌な体験をした場所を覚えれば、そこを避けるのは、動物としては正しいのです。感情を調節する方法は分からず、タガが外れたら自分では疲れ果てるまで保護者の助けなしに調節ができないからなのです。

毎日、大きく傷ついて、それを糧として、日々賢くなっていくのが幼児なのです。人が成長するとは、日々、死に向かって進むことですし、傷つきを乗り越えることで成長は成り立っているとさえ言えます。

しかし、それまで十分に普通に振る舞うことができたとしても、こどもがこれらの様子を示すようになったら、それは、どこかでひどく辛い「外傷的なできごと」に遭遇したと考えてよいだろうと思います。

ほかではしっかり年相応のことができるのに、その症状が急に現れるのがPTSD症状です。それだけ、こどものPTSDは周囲には理解されにくいものですし、こどもの他の心理的な課題とも区別がしにくいものなのです。

たとえば、以下のような症状があったとき、ADHDと理解されるときが多いように感じます。しかし、私の経験では、PTSD症状によると考えた心理的な支援方法を考えた方がよく、実際、その結果はよいと思います。

「何かの機会に人が変わったように、泣き出すと止まらない、怒り出すと止まらない」ことや、「何でもない状況で、激しく怒ることや泣いてしまう」ことは、ほぼ「侵入症状」だと言えます。「何かで感情を乱した後で、なにがあったのかを思い出せない」ときは、「外傷的なできごと」と似たことがトリガーとなって、「侵入症状」を引き起こしてしまい、その結果、脳そのものが十分に機能しなくなり、今起きたことを思い出せないような脅威が生じたと考えてもよいことです

一方、「落ち着きがない」や「席につかない」は、ADHD(注意欠陥・多動性障害)でも起きるです。ただし、「 覚醒度と反応性の著しい変化 」があると「集中困難」が起きやすいことや、「易怒性または怒りの爆発」がその症状にあることは視野に入れておかなければなりません。

ここでは詳しくは述べませんが、ADHDに限らず、発達障害の子どもは 、定型発達(通常)のお子さんと比較して、PTSDを持っている場合が多いことがあります。それは、発達障害の問題ではなく、その特徴に見合った心理的な環境が用意されていないことや、傷つきやすさ、傷つきを悪化させやすい認知的な特徴によるものです。発達障害と考えられる症状の中に、PTSDの症状が含まれることがあるので注意が必要です。加えて、PTSDの症状があるのに、発達障害の療育を先行させることには慎重でなければならないと、私は考えています。

なお、外傷的なできごとを思い出したかのような強い恐怖に関わる生理学的反応(心拍数の増加、吐き気、発汗、筋肉の緊張、過呼吸などの身体的感覚)が起きることもあります( 認知および気分の陰性の変化 )。これらの症状は、身体にストレスホルモンを強く発射しますので、さまざまな心因性の身体症状を生み出します。

たとえば、頭痛や腹痛、発熱、肩こり、疲労感などを生み出します。このような症状は、まずは内科疾患の診断が優先されますが、内科疾患上の諸検査で問題がない場合には、心因性のストレスと考えて対処が必要になります。そして、その背後にPTSD症状が潜む可能性も視野に入れておかないといけないと思います。なぜなら、幼い場合ほど、身体の不調を入口に、こどもの心理的な問題が明らかになっていくことも少なくないからなのです。

以上述べてきましたが、PTSDには、一般によく見られる症状が数多く含まれています。実際には、それが年齢相応なのか、その頻度や程度がどうかを見て判断していきます。また、「外傷的なできごと」が見えないまま、それらの症状を示している事例も少なくありません。PTSDの解消を目指す治療を行っていく中で、ようやく「外傷的なできごと」が明らかになっていく場合もあるのです。

ですから、このブログでは、こどもの様子、つまり表面上の症状別に関わり方をお伝えしたいと思います。その場合、PTSDを視野に入れながら、あらゆる場合を想定して、間違えのない支援の方法をお伝えしていきたいと考えています。

【参考】DSM-5の診断項目 項目をクリックすると診断項目が現われます。

  • 反復的,不随意的,侵入的で心を乱す記憶がある
  • 外傷的出来事に関する心を乱す夢(例,悪夢)を繰り返し見る
  • 外傷的出来事が再び起こっているかのように行動したり,感じたりする
    (フラッシュバックの体験、現在の周囲環境に対する認識の完全な喪失まで)
  • 外傷的出来事を思い出す際(例,記念日,できごと発生時のときの刺激記憶…聞いたものに似た音など)によって強い心理的または生理学的苦痛を感じる
  • 外傷的出来事に関連する思考,感情,または記憶を回避する
  • 外傷的出来事の記憶を引き起こす活動,場所,会話,または人を回避する

  • 外傷的出来事の重要な側面の記憶障害(解離性健忘)
  • 自身,他者,または世界に関する持続的かつ過剰な否定的確信または予想
  • 自身または他者を責めることにつながる心的外傷の原因または結果に関する持続的な歪んだ思考
  • 持続的な陰性感情の状態(例,恐怖,戦慄,罪悪感,恥辱)
  • 重要な活動における関心または参加の著明な減退
  • 他者からの孤立感または疎遠感
  • 陽性感情(例,幸福感,満足感,愛情)を経験できない状態の持続

  • 睡眠障害
  • 易怒性または怒りの爆発
  • 無謀または自己破壊的な行動
  • 集中困難
  • 強い驚愕反応
  • 過度の警戒心

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ABOUT US

cocorocare大学教授・NPO法人元気プログラム作成委員会理事長
NPO法人元気プログラム作成委員会理事長。カウンセリング研修センター学舎ブレイブの運営をしています。大学で教育臨床心理学を教えています。教育相談の面接を35年以上してきました。 公認心理師、臨床心理士、学校心理士、カウンセリング心理士(認定カウンセラー)です。カウンセリング心理士のスーパービジョンの資格もあります。臨床経験ですが、1時間の対面相談だけでも2万時間以上の面接を重ねてきました。 一緒に悩みの解消を考えていくカウンセリングスタイルが基本です。市町や学校単位で不登校を減少させる取り組みも18年ほど取り組んできました。クライエントさんの意志を尊重しつつ、必要とあれば、PTSDの解消にはEMDRを用いたり、アクティブテクニックとして認知行動カウンセリングを用いたりします。