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PTSDの子どもを支援する 各症状にどう関わるか 「憂うつ・無気力」の場合

外傷的な体験に出会ってから、数ヶ月以上経過して生じてくるのがPTSD症状です。この記事は、お子さんが示す外傷的な体験に関わる心理的な症状別に、どのように関わったら良いのかについて、お話ししています。ここでは、「外傷的なできごと」が起きたての初期段階に行うことと少し異なっています。過去にいじめられ体験や虐待体験のある子どもへの関わりとしても役立つであろうと思います。
PTSD症状であってもなくても、お子さんの近くにいる保護者や支援者がお子さんにどのように関わると良いのかについて、間違いのない関わり方に限定してお伝えしています。

なお、「憂鬱・無気力」の記事は、2011年11月20日に東日本大震災後のこどものこころのケア支援のための専用HPで掲載され、それを再構成したものです。

憂鬱・無気力の症状の特徴

憂鬱・無気力はできごとからの時間が経過するほど増える

阪神・淡路大震災のときに、子どもたちの示した症状の時間による変化では、次のことが分かっています。

「時間の経過からすると、身体症状や恐怖・不安反応の多くは、時間の経過に伴って早めに減少を始めます。ただ、遅れて増えていく反応があります。それが、抑うつ・無気力反応です

抑うつ・無気力反応とは・・・憂うつ・記憶低下・興味消失・話したくない・孤独感・罪悪感を抱く

ことです。

このことへの関わりが実は難しいことを、理解しておく必要があると思います。
大人が悩まされるのも、これからは、この症状ですが、子どももそうです。

一番、学校の先生に分かりやすいのは、「勉強しなくなった」ことです。

も ちろん、「解離」の症状があれば、注意が集中できなくなりますし、記憶力の低下などの問題も起きやすいですから、勉強はできなくなります。恐怖や不安、身体症状や怒りなどの不快な感情も、総 じて勉強への集中力を低下させます。注目するのは、学力成績の低下や「勉強ができなくなった」「成績が下がっ た」ことよりも、「勉強への意欲の低下」です。

トラウマを受けた子どもの行動チェックリスト」というものがあります。その項目では、憂鬱や無気力に関連するものは、以下が相当します。他のストレス反応とも重複しますが、ご参考までに以下に示します。

□特定の出来事について考えたり、話したくないという
□特定の出来事を思い出させるような場所や人や物、あるいは活動を避けることがある
□過去にあったいやな出来事を思い出したくないようである
□特定の出来事を思い出させるような場所や人や物、あるいは活動に興味を持ちにくい
□「わかってくれない」と言うことがある
□感情表現が少ない
□将来についての夢がない
□集中力がない
□特定の出来事を自分のせいで起こったと感じていたり、そのことについて自分を責めるようなことがある。

憂鬱無気力子ども見出しにくい

冒頭で、憂うつ・無気力反応については、「関わりが実は難しい」と述べました。加えて言えば、よほど注意を払わないと、学業面からの意欲の低下以外に、「見出しにくい」症状でもあります。

なぜなら、上記のチェック項目をよく見てください。本人に確認しないと分からないことが多いのです。

「思い出したくない」「話たくない」とは尋ねなければ分かりません。本当に「わかってくれない」と思ったら、何も言いません。「わかってくれない」とは言いません。将来についての夢も、尋ねなければ分かりません。

「僕 のせいだ」と罪悪感を持っていたとしたら、それを言える相手は、よほどの信頼関係がなければ言えないでしょう。「感情表現が少ない」とは、表情に変化が少な いことです。人は他人の表情の変化に反応しますので、変化がないことは、見えないのです。以前よりも感情表現が少なくなったというのであれば、教師や保護 者は気づきます。でも、もともと「まじめ」で「おとなしい」としたらどうでしょうか。変化に気づかれにくいのです。

学校でも家庭でも気づかれず、したがって、適切に関わってもらえないのが、これらの症状なのです。

憂鬱で無気力な子どもにどう関わるのか

「がんばれ」と声をかけること

ところで、大人のうつ病では、「がんばれ」と、叱咤激励をしてはいけないことは、ご存じの方も多いのです。でも、この憂うつ・無気力も、子どものうつ病に近い症状であるとしたらどうでしょうか。

「がんばれ」「しっかりしろ」「元気を出して」との声かけが、このような様子のお子さんに、危ういことは覚えておいてください。

「がんばれ」とは、「おまえは頑張っていない」
「しっかりしろ」とは、「おまえはしっかりしていない」
「元気を出して」とは、「元気でないとダメだぞ」

というように、このような状態のお子さんの心には響きます。
では、どのように働きかければ良いでしょうか?

1.基本的な構え・・本人が望む遊びなどの活動を一緒に行う

無気力にせよ、憂うつにせよ、「自分はダメだ」と思う気持ちが基本にあります。
また、全体として、活動性が落ちています。
すべての感情にブレーキをかけ続けた結果、憂うつという感情が起きてくると筆者は考えています。

「本人が望む活動」を一緒に行うことが意味するのは、
あなたが好むものは、私も好む・・・ということです。
それは、「あなたがあなたでいて良い」ということです。

一緒に行うものは、お絵かきでも、折り紙でも、カードゲームでも、テレビゲームでも良いのです。理想を言えば、卓球などの身体活動を伴う運動の方が良いのですが、あくまでも子どもの興味・関心の部分で寄り添うのが基本になります。

卓球のような身体活動の何が良いのかと言えば、瞬間的な動作を伴うものであること、その都度、上手くいった、失敗したの結果が出やすく、感情を表出しやすいことの2点があります。そこで、表れた表情、「失敗した」「やった」「くやしい」「嫌だ」「嬉しい」を、一緒に喜ぶ、悔しがる、残念がるなどのことを行うことは、抑えられた感情の表現を促すことになります。憂うつな状態から脱出させるために、これらの関わりは、とくに重要なことになります。

2.無気力になっていると感じた場面で行うこと

❖それまで、基本的にまじめなお子さんである場合は、とくにですが、やる気を失っている場合は、「がんばれ」という代わりに、たとえば、次のように声をかけます。

「困っているのかな?」
「どうして良いのか分からないかな?」

❖基本的に、まじめなお子さんには、次のように声をかけるようにします。

「がんばっているのを知っているよ」
(基本的に、そう言う理由を付け加えます
「これまでいっつも○○をして、頑張って来たものね」

「いっつも○○したいと思っているんだものね」) 
「無理はしなくて良いからね」

こ のように声をかけるには、お子さん自身が、気持ちの上で頑張っていることを支援者が熟知していなければなりません。また、そのように熟知していることを、 お子さんも知っていないといけないことになります。そのためにも、活動を一緒に行うことで、より良い関係を十分に築いておかねばならないでしょう。

また、ふまじめに見えるお子さんでも、この関係が十分に結ぶことができていれば、この言葉は、お子さんのやる気を下支えするのですが・・・。関係が結ぶことができていない段階では、逆に作用するかも知れません

なお、思春期以降の抑うつ・無気力、とくに悲嘆反応に伴う抑うつ・無気力への関わりは、今後、別に述べたいと思います。

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ABOUT US

cocorocare大学教授・NPO法人元気プログラム作成委員会理事長
NPO法人元気プログラム作成委員会理事長。カウンセリング研修センター学舎ブレイブの運営をしています。大学で教育臨床心理学を教えています。教育相談の面接を35年以上してきました。 公認心理師、臨床心理士、学校心理士、カウンセリング心理士(認定カウンセラー)です。カウンセリング心理士のスーパービジョンの資格もあります。臨床経験ですが、1時間の対面相談だけでも2万時間以上の面接を重ねてきました。 一緒に悩みの解消を考えていくカウンセリングスタイルが基本です。市町や学校単位で不登校を減少させる取り組みも18年ほど取り組んできました。クライエントさんの意志を尊重しつつ、必要とあれば、PTSDの解消にはEMDRを用いたり、アクティブテクニックとして認知行動カウンセリングを用いたりします。