ここで話題となる症状がPTSDなどのトラウマによるものとは限りません。また、「外傷的なできごと」が去ってから1ヶ月以内に起きる症状はPTSDと呼びません。それ以降に症状が示される場合のをPTSDと呼びます。
PTSD症状であってもなくても、お子さんの近くにいる保護者や支援者がお子さんにどのように関わると良いのかについて、間違いのない関わり方に限定してお伝えしています。
この記事は、2011年10月23日に東日本大震災後のこどものこころのケア支援のための専用HPで掲載されたものです。それを再構成しました。
「解離」とは
「解離」(dissociation) は、PTSD症状の中では、代表的で深刻な症状ですが、周囲から気づかれにくく、災害などでは、想像以上に多く見られ、その上、関わりが難しい症状です。
「解離」は、病的な心理状態ですが、自分の心を外界の刺激や脅威から守る働きであり、辛い目に遭うと誰もが示す症状です。
解離症状(解離現象)とは、『意識(自己同一性)・記憶・感情・知覚・思考といった自我機能の統合性が障害』され、まとまりを失っている心理状態のことです。
「解離」そのものは、次のような心理状態です。『頭がぼんやりとして、靄(もや)がかかったような感じ。今にも眠ってしまいそうな意識が遠のいている感じ。周囲の他者や世界のリアリティが弱くなって、自分と世界が切り離されているような夢見心地』といった『ぼんやりとした現実感の薄らいだ感覚』の事です。
ひどく疲労しているときなどに感じたことに似ていて、『感覚をまとめる能力が一時的に失われた状態』です。 この状態では、『意識、記憶、思考、感情、知覚、行動、身体イメージなどが分断されて感じられる』ところに特徴があります。
周囲から見ていると、ぼーっとしていて、こころがここにあらずに思われるかも知れません。 情緒不安定と言われる場合や、感情がうまくコントロールできない様子なども、解離症状が関連していることがあります。勉強しても覚えられないことや、先ほど語っていたことを忘れてしまっているような場合もあります。
PTSDで、この症状が生じるのは、辛かった過去で起きた感覚や感情を思い出さないようにブレーキをかけるからなのです。ブレーキがきつ過ぎるために、今の刺激が入っていかないのです。この症状が出ているときは、それがほどけてくる環境を作るのが基本になります。
1.基本的な構え…「今、ここで」を意識して、支持的・受容的に接する
「支持的・受容的」との言葉を、筆者は好みません。滅多に使いません。それほどに、「支持的・受容的」な接し方は難しいので、安易な使い方をしたくないのです。 「支持的・受容的」を簡単に口に出す人ほど、相手からの距離の取り方が不安定で、近寄り過ぎたり、離れすぎたりします。「甘やかす」許容との意味の違いも 弁えていないことが多いからです。
「支持的・受容的」に接するのは、丹力が必要です。そこで大切にしたいのは、縦横無尽に今、ここでの相手の感情を表情から繊細に(「敏感に」ではありません)感じ取って、それを実感を持った言葉と表情で表現できることです。
「好きなんだー」「嬉しいね」「楽しいね」「楽ちんだねー」などの快適な言葉も、
「悲しいね」「いらいらするね」「悔しいね」「腹立っちゃうね」「寂しいねー」「心配なんだ」「不安かな」「恐いかな」などの不快な言葉も、見て受け取った感情を言葉にします。
その瞬間にお子さんが感じている感情に温かく添うのです。
感情を言葉にすることの効果は、さまざまにあります。ですが、ここでの最大の目的は、今、自分の身体を巡っている感情は、そのままに感じ、それを正直に表情に示して良いとのメッセージになります。
支持的であるとは、「あなたはあなたのままで良い」ということです。
相手の辛さ、苦しさが本当に伝わった瞬間には、涙することがあっても良いのですが、関わる側の身体の中心部分には、どしんとした安定感、安心感がずっと必要になります。穏やかに、大人自身がいることです。許容ができることは、許容しますが、許容できないことは、制止しても良いのは、当然の話です。
しかし、許容しないことが、「貴方はダメ」とのメッセージにならないように注意します。
叱った場合には、丁寧なフォローが必要になります。
(ただし、これはご機嫌取りでは決してありません。ご機嫌取りは、支持的・受容的とは言いません。むしろ、これは解離症状を悪化させます。また、元気にさせようと、必要以上に明るく接することや、本人を元気にさせようと気分を変えさせようとすることも、解離症状を悪化させます)
大事なことは、普段、今、この瞬間の感覚や感情を意識して、気分の変化がゆったりと流れるようにお子さんに関わることなのです。
2.解離症状が見えたときに行うこと
解離の症状は、いつもあるわけのではありません。表情、気分に落ち着きがなくなり変化するなかで起きます。つまり、感情の流れが安定せず、その中で、不意に表情が無表情になるなどするときや、ぼーっとしているなどの感情が鈍磨したときなどが解離症状が見えた瞬間です。
1.お子さんに触る…家族ができること
触り方は、「※とけあい動作法」の触り方が理想です。ここで身体に触る目的は、不快な感覚や感情を思い出さないようにブレーキをかけた状態に、今、その感覚を感じても大丈夫というメッセージを、さまざまなチャンネルで働きかけることです。
※【とけあい動作法】
お子さんに触ることが許される関係であるなら、手のひら全体で、肩や背中に触るようにします。これは、落ち着いて活動に取り組んでいるときに、「それで良いから」と、皮膚接触で伝えて行く方法です。
この触り方は、「とけあい動作法」の手法ですが、10分ほどで簡単に覚えられる方法です。これは、怒りが収まったときや、活発に動くことが収まったときにも使うことができます。
2.声をかける
「○○くん」「○○さん」と本人の名前を呼びます。
「何か心配になっちゃったかな?」
「何か嫌なのかな?」
と声をかけます。
解離症状は強烈な不快感情を押し殺した状態ですので、上記の台詞が通用するはずです。
声をかけるときには、にっこりと微笑んで優しい表情を作ります。解離症状から、今、ここでの感覚を取り戻したときに、不快な刺激を与えないようにするためです。夢の中にいるような感じですので、夢から覚めたときに、快適な温かい眼差しのある現実に迎えられた方が、その現実に注意を向けやすくなりますし、気分が良い方向に移りやすくなります。
3.解離症状から抜け出した場面で行うこと
表情が元に戻ったら、触っている手をゆっくりと離します。
実は、「何かを特別に行わない」ことが、ここで行うことです。
おだやかな表情で「何か妙だったねー・・・」と、声をやさしくかけ、元気が戻るまで、そこにいます。
冒頭にも書きましたが、解離は、恐さや辛さを感じすぎないようにしているブレーキをかけた心理機制です。
それを、わざわざ引き出す必要はありません。何を感じていた、何を思い出していたのかを追求しないようにします。
4.解離症状が消えると、他の症状が現われやすい
しだいに、この解離が見られなくなってくるにしたがって、その段階で、他の症状がさまざまに起きてきます。恐さを示すようになったり、攻撃的になったり、身体の症状が現れたり、情緒不安定な問題が顕著になっていきます。解離はブレーキです。解離症状が消えるとは、ブレーキが外れたことを意味します。そのため、抑えていたさまざまな感覚や感情が現れやすくなります。
つまり、情緒が不安定な状態は、解離を手放す際に起きてくるのです。解離症状が解消していくプロセスで起きます。このプロセスでは、誰かが上手に関わらなければなりませんが、このプロセスを経ないと情緒が安定していきません。このプロセスで下手に関わると、情緒不安定な状態が何年も続く場合もあります。
解離とは、ブレーキの解除がされた状態ですので、解離をしないことは目的にはなりません。たとえば、「ぼーっとしない」とか、「しっかりする」とか「緊張しなさい」と解離をなくすように関わることは、別のブレーキをかけるように勧めることに他ならないからです。わざわざ解離を取り除こうとしてはいけないことが、ここで何もしないことの意味なのです。解離の症状が消えても、現実には、とくに恐いことがないのだ…安心なのだと感じることが大事なのです。その体験が解離症状を減らしていくのです。現実を取り戻せたら、活動を急がせず、あまり興奮せずに、まったり、ゆったりとした遊びなどに誘うことで、穏やかな気分に導くのはお勧めかも知れません。
解離症状に気づき関わると、しだいに、解離症状が減ります。それにしたがって、それ以外の周囲にとってはより困った症状が増えて、周囲の人たちにも気づかれるようになります。この症状に向き合う場合には、この症状が消えた先も、関わりを続けることになるかも知れない、との覚悟が必要です。
ただし、この症状は、辛い体験からの時間経過が早い段階から、解離症状から抜け出すのを手助けするほど、その後、紆余曲折し、さまざまな心理的な問題を示しますが、最終的に問題の解消は早く進みます。
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