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外傷的なできごと…とは?

Cocorocare こと小林正幸です。今回は、こどもの外傷的なできごとは、おとなの場合と異なることをお伝えします。「死んでしまうのではないか」と感じるほど恐いできごとは、こどもとおとなとでは違うからです。 誰かに頼らねば死んでしまう存在、それがこどもだからなのです。

「外傷的なできごと」と「トラウマ」

トラウマ(psychological trauma)」は、「心的外傷」と訳します。関連する言葉に、「外傷的なできごと」があります。

「外傷的なできごと(traumatic event)」は、「外的および内的な要因によって、肉体的および精神的な衝撃を受けたこと」を表します。

❖「トラウマ」は、長い間、その「外傷的なできごとにとらわれてしまう状態で、否定的な影響を与えていることを指す言葉です。

おやおや・・・難しいですね。

まとめれば、次のように言えます。

死ぬほどに恐く強いストレッサー(ストレス因)にさらされることを、「外傷的なできごと」と言います。それは、一定程度長く続く特有の強いストレス反応を引き起こします。その症状を「トラウマ」と呼ぶのです。

つまり、外傷的なできごとが、トラウマを生むのですね。因果論で言えば、そうなります。以下は米国のDSM-5と呼ばれる診断基準が示す「外傷的なできごと」です。

では、このようなできごとが成育歴になければ、トラウマのような症状があっても、それはトラウマと呼べないのでしょうか?・・・そうでもないのです。また、このようなできごとがあれば、トラウマの症状を示すものでしょうか?そうでもないのです。
そこがストレスに関わる理論の難しいところなのです。

外傷的なできごとが、トラウマに発展するとは限らない

「外傷的なできごと」が「トラウマ」に発展するものでもない…という証拠を示しますね

この図は、主に災害の「外傷的なできごと」の後、どのような「トラウマ」がどの程度の人に生じるのかについて示したものです。ご覧ください。これは、さまさまな災害にあった人が、その後のトラウマの症状や、心理的な課題を示したのかについて疫学的に追跡したものです。

図にあるように、大多数の被災者は一過性のストレス症状を示します。しかし、9か月時点で45%から80%は自然に治ります。「トラウマ」と呼ばれる症状の代表はPTSDですが、PTSDと同じ症状がある場合として、他に「ASD」や「遅発性PTSD」があります(これは次の項目で説明します)。

PTSD症状は、男性で約1割、女性で2~3割とされます。
図で大事なのは、以下のことです。

全体の3分の1は、3年以上トラウマに関連する症状が継続し、2次的な心理的な課題を抱えやすく、1年経過時点で、鬱、不安障害、広場恐怖、社交恐怖、パニック障害、物質乱用などの二次的な心理的な課題を抱える場合があります。

逆に言えば、3分の2は、トラウマに関連する症状や心理的な課題長く苦しむわけでもないのです。

いつトラウマの症状が生じるのかは分からない

ここで、「ASD」、「PTSD」と「遅発性PTSD」の違いを述べましょう。その違いは、その症状が出てくる時期なのです。

症状そのものにはあまり違いがありません。強い恐さを味わった影響で、そのときに味わった強い恐さを示す症状が状況に関係なく現れることが共通することです。頭では安全だと分かっていても安心ができません。強い恐さを与えられたときの記憶が甦り、本人の意志では制御できない形で、感情、身体感覚や身体症状や行動に恐怖の症状として現れるのです。

なぜ、その症状が現れる時期が違ってくるのかは、分かりません。分からないのに、わざわざなぜ分類するのかと言えば、対処の仕方が違うからなのです。症状や対処方法は別にお伝えします。

同じ症状でも、現れる時期によって呼び名が違うということをまとめますね。私は、「トラウマ」は「PTSD」と「遅発性PTSD」のことを指していると考えています。

ASD(急性ストレス障害 :Acute Stress Disorder :通常、外傷的なできごとに出会って4週間以内に起きる反応。PTSR(心的外傷後ストレス反応)とも呼ばれます。

PTSD(心的外傷後ストレス障害:Posttraumatic Stress Disorder:症状が1ヵ月以上持続し、それにより顕著な苦痛感や、社会生活や日常生活の機能に支障をきたしている場合、PTSDと診断されます。

遅発性PTSD(Posttraumatic Stress Disorder, Delayed):心的外傷後ストレス障害のうち,ストレッサーから少なくとも6 カ月以上経過して症状が出現しているものです

なお、図では、「PTSD」症状を示した人の7割には「ASD」がないことが示されています。つまり「ASD」症状を示した人の7割は、最初の1か月を過ぎると、自然に消失していくのです。

子どもにとっての外傷的なできごと

DSM-5で示した「外傷的なできごと」は、多くの人にとって「外傷的なできごと」になりやすいものです。「このような体験が過去にあった場合に、トラウマ症状を示す場合が多いので、注意しておきましょう」ということを意味しているのです。また、「トラウマ症状が疑われる症状があった場合に、この観点で成育歴を確認しましょう」という意味でもあるのです。

そこで、以下に「子どもの外傷的なできごと」と思われるものを例示します。これは、私がそう考えているというものでオーソライズされているものではありません。

大人よりも子どもの方が、大人にとって小さなできごとでも、非常に大きなストレスを与え、「外傷的なできごと」になりやすいのです。子どもの方がストレッサーに脆弱性(もろくて弱い)があると考えられています。子どもは回復力があるからとか、記憶が残らないので…と、言われてきたりしました。しかし、そうではないというのが、今の心理学の考え方です。

そこをご理解いただいた上で、説明を少しだけ付け加えますね。

  • 家族や仲間の死亡の目撃:これは、大人にとっても辛いできごとです。ただ、そのことが子どもにとってトラウマになるかどうかは、その子どもが、そのときに、どれだけ恐く、脅威的なできごととなったのかが大事です。周囲にいる大人がその死を悲嘆にくれながらも、受け止め、しっかりと別れを告げ、自身の記憶に故人との記憶を大切にしていく風情でいることができれば、恐さや脅威は生じにくいでしょう。しかし、その死が家族に受け入れがたい場合などでは、子どもを支える余裕を家族は失います。その死を耐え難いと感じる保護者の様子を見ることになると、子どもによっては、相当に脅威のある恐ろしい場面になってしまします。
  • 家庭内DVや激しい夫婦喧嘩の目撃:最近は、子どもの目の前でのDVは、「虐待」の一種と考えられます(面前DVと呼びます)。離婚に至るような夫婦喧嘩では、離婚寸前では冷戦に近いものになりがちです。そのようなとき、子どもを伝言板にして夫婦の会話をする場合などでは、屈折して悪意が隠れたメッセージのやり取りをすることがあります。子ども自身、文意が分からなくても、そこに潜む敵意や悲しみの感情を感得します。そのようなことが、子どもには外傷的なできごとになることもあるのです。
  • 虐待虐待は、「心理的な暴力」「身体的な暴力」保護者が子どものお世話をしない「ネグレクト」の3種類があります。ネグレクトの場合、本人が被害を受けたとの自覚が起きにくいので、外傷が意識に上りにくいのです。なされていないことへの傷つきは、自身の課題になりにくいのです。そのトラウマは、深刻になります。
  • いじめられ被害:実は、子どもの調査で、いじめられ被害の体験は小学校の場合、からかいや仲間外しなどを含めると、3年間で約80%、中学校の場合で約70%が体験したとする研究(国立教育政策研究所)があります。いじめの問題は実に多く、この現実の中で、子どもたちは育っています。その中でも、ひどいいじめられが起きることがあります。そのようないじめられ体験や長期にわたる被害体験は、確実に「外傷的なできごと」に発展します。学齢期の不登校や青年期の対人不安で長期化している事例の背後に、いじめられ体験記憶が密接に関連することが少なくありません。
  • 借金の取り立て者による脅威:ここでは、「借金取り立て者」としましたが、侵害性のある他者が家庭に押しかけてくるような事態を指すものです。たとえば、離婚調停の中で親権を争っている場合などで、親権を持つ者の子どもとの接触を強引に行う場合、家庭内DVで片方の保護者が子どもを連れだして逃げ、それをもう片方がストーカーのように追いかける場合などもこれに相当します。これは、大変な脅威を子どもにも与える「外傷的なできごと」です。
  • セクハラやレイプ、犯罪被害および被害の目撃:これは、DEM-5に入っていますね。大人にとっても脅威なことですので、子どもの場合はなおさらです。

さて、この項目から外しているものがあります。「離婚」「発達性トラウマ」です。

【離婚】
離婚が「外傷的なできごと」になりやすいのですが、もちろん、そうはならない離婚も多々あります。離婚を思い至ってから離婚になるまでの離婚騒動のとき、子どもがどのような立場に置かれ、子どもがどのようなこととして、それを理解していたのか、そして、離婚に至って、その後の親子関係(夫婦は離婚すれば赤の他人ですが、子どもにとっての親子の関係は切れません)がどうであり、それを子どもがどのようなこととして記憶に収めてきているのかによって、「外傷的なできごと」となるかどうかが分かれるからです。
ただし、離婚に至るまでの経緯、離婚、その後の親子関係が円満であったとしても、子ども自身は、片方の親から「見捨てられた」感覚が残りやすいものです。「自分は価値がない」とか「自分は愛されない」などの感覚を持っている場合も少なくありません。これを「外傷的なできごと」と呼ぶかどうかは微妙です。けれども、そのような感覚が生じている場合には、心理的な支援があるに越したことはありません。

発達性トラウマ
最近、2011年頃からですが「愛着障害」の言葉が使われるようになって、そちらの方が有名かも知れません。これは確実に「外傷的なできごと」です。幼児期に適切な育児がされず、とくに感情のコントロールの発達に弊害を及ぼすような育児環境にあった場合です。これは、「複雑性PTSD」と呼ぶ深刻な課題を児童期以降に示す発育になっていきがちです。
これについては、別に述べましょう。

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ABOUT US

cocorocare大学教授・NPO法人元気プログラム作成委員会理事長
NPO法人元気プログラム作成委員会理事長。カウンセリング研修センター学舎ブレイブの運営をしています。大学で教育臨床心理学を教えています。教育相談の面接を35年以上してきました。 公認心理師、臨床心理士、学校心理士、カウンセリング心理士(認定カウンセラー)です。カウンセリング心理士のスーパービジョンの資格もあります。臨床経験ですが、1時間の対面相談だけでも2万時間以上の面接を重ねてきました。 一緒に悩みの解消を考えていくカウンセリングスタイルが基本です。市町や学校単位で不登校を減少させる取り組みも18年ほど取り組んできました。クライエントさんの意志を尊重しつつ、必要とあれば、PTSDの解消にはEMDRを用いたり、アクティブテクニックとして認知行動カウンセリングを用いたりします。