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PTSDの子どもを支援する| 各症状にどう関わるか|「再体験」の場合

ここで話題となる症状がPTSDなどのトラウマによるものとは限りません。また、「外傷的なできごと」が去ってから1ヶ月以内に起きる症状はPTSDと呼びません。それ以降に症状が示される場合のをPTSDと呼びます。
PTSD症状であってもなくても、お子さんの近くにいる保護者や支援者がお子さんにどのように関わると良いのかについて、間違いのない関わり方に限定してお伝えしています。
この記事は、2011年10月18日に東日本大震災後のこどものこころのケア支援のための専用HPで掲載されたものです。それを再構成しました。

PTSD症状の一つに「再体験」があります。過去の辛い記憶、恐怖が今起きているかのように甦ることです。フラッシュバックと呼ばれたりします。別にそれを思い出すつもりがなくても、ちょっとしたきっかけで、辛かった体験を思い出してしまうのです。

地震ごっこ」「津波ごっこ」などもその一つの表れとも言えますが、「ごっこ遊び」は、症状と呼ぶほどの悪いことではありません。むしろ回復に必要なもので、上手に扱えば良いのです。

自分の感情のコントロールがうまくできないことや、突然に予想外の動きをすること(行動の自動化)、体験したことを覚えていないこと(解離性健忘)なども、これと関連する症状です。

思い出すのは、映像とは限りません。身体の感覚を思い出す人もいます。恐怖感や苦痛だけが浮かび上がってくる場合もあります。

読者には信じがたいでしょうが、筆者が関わった方では、首筋に首を絞められた指の跡が浮かびあがってきた場合すらありました。幼児期のことであったので、本人には、その瞬間まで、それが本当にあったことかどうかは分からなかったのです。

しかし、その身体感覚が浮かび上がってきたことで、自分にあった体験の全てを思い出すことになりました。そこまでは、全ては記憶の底に畳まれ、しまいこまれていたのです。その体験は覚えていませんでした。これを解離性健忘と言います。

これほどのことは、そうあるわけではありません。

でも、「死ぬかも知れない」、普通にはありえない形で「誰かが目の前で死ぬのを見る」ような体験を味わったとしましょう。そのときの恐怖や緊張や苦痛の記憶の塊が、目の前の状況とは関係なく、そして、自分の意志とは無関係に感じてしまうのです。目の前のことが、恐いわけではないのです。ただただ、過去の恐くて嫌な記憶に苛まれるのです。

みどりの東北元気キャンプファイナル 2016年8月 撮影:小林正幸

1.基本的な構え・・ゆったりと関わる

突然、泣きだしたり、恐がったりします。固まって何も言わなくなることもあれば、大騒ぎする場合もあります。逃げ回る場合もあるでしょう。その子どもの気分の変化にとらわれないようにするのです。ゆったりと接する(何が起きたのかを追求しない)ことが、基本的な構えになります。

そこまでの気分から、不快な気分に移るとき、その直前に何があったのかには注意を払っておきます。特定の台詞に反応している場合もあります。特定の状況に反応している場合もあります。あるいは、特定の音や音楽に反応している場合もあります。

支援者や教師が基本的に弁えねばならないのは、「不快であれ快適であれ、人は何を感じても良い」「感情に快・不快はあってよい」「全ての感情は悪いものではない」「不快な感情は、人にとって必要なものである」ということなのです。

2.突然不快な感情に支配された時に行うこと

お子さんに触ることが許される関係であるなら、手のひら全体で、肩や背中に触るようにします。これは、このような場合にも効果的です。「それで良いから」と、皮膚接触で伝えて行くのです。この触り方は、「とけあい動作法」の手法です。

でも、この関わりがお子さんの辛かった体験を思い出させる場合すらあります。

みどりの東北元気キャンプでのことでした。あるお子さんは、優しく触れられることが引き金となって、一挙に不快感を示して、その場所にいられなくなってしまいました。優しく触られたことが父親を思い出させたのです。その子の父親は亡くなっていました。

以前に触れたように、純粋に恐がっている様相を見せてもらえるのならまだ良いのですが、固まってしまう場合やその場面から逃げ出してしまう場合には、 その恐さが周囲に理解されにくいこともあります。活動に乗せることに集中していると、つい叱責をしたり、説得をしたくなりますが、これは役に立たないだけではなく、逆効果になります。

「恐いんだね」「辛いんだ」「苦しいのかな?」「さびしいんだよね」などと言葉にします。もちろん、「嫌だ」という感情もあるかも知れません。「嫌なんだ」落ち着いた声で話しかけます

目に涙が浮かんでいるような場合は、「くやしんだ」「悲しくなっちゃうね」などの言葉が適切かも知れません。

お子さんの過去の傷つき(外傷的なできごと)が分かっているのであれば、的確な言葉が選べます。

3.気持ちが落ち着いてきたら・・・現在はいつで、どこにいて、何をしているのかの確認を行う

お子さんが苦しんでいるのは、過去の記憶です。ですので、上記のようにして不快な感情を落ち着いた現実に今いる人の声で言葉にしていくことで、気分が落ち着いてきます。

「嫌なことを思い出しちゃったんだね」

「恐かったんだね」「いやだったんだね」

このように、過去の記憶であることを強調するために、過去形に切り替えて言葉をかけていきます。

そして、気持ちが相当に落ち着いてきたら、今、ここはどこであるのかを確認します。

「今はいつだっけ?」

「今は何をしていたんだっけ?」

「私は誰か分かるよね」

「大丈夫だよ。それは終わったことなんだよね」

などと語りかけます。

今がいつで、このようになる前に、自分は何をしていたのか、話している相手は誰なのか、今、見えているものは何なのか、今、感じている身体の感覚はどうなのか・・・などなど、現在の感覚に注意を向けさせるのです。

4.穏やかに落ち着いた声をかけ続けます

そして、ようやく落ち着いて、再体験が収まったと思われたら、それを喜びます。

「よかったね・・・気分が直って」

このように声をかけます。

全ての関わりで一番重要なのは、このことです。今、この場で、不快な気分からの回復が快適なことであることを、しっかりと印象付けるのです。

5.未来の希望のあることに繋げる

「もう大丈夫」

「今度、恐いことがあっても、また、きっと守るからね」

「みんな、これからよくなっていきたいって考えているからね」

などと、先々によくなる希望があることや、本人をこれからも守ることなどを話します。

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ABOUT US

cocorocare大学教授・NPO法人元気プログラム作成委員会理事長
NPO法人元気プログラム作成委員会理事長。カウンセリング研修センター学舎ブレイブの運営をしています。大学で教育臨床心理学を教えています。教育相談の面接を35年以上してきました。 公認心理師、臨床心理士、学校心理士、カウンセリング心理士(認定カウンセラー)です。カウンセリング心理士のスーパービジョンの資格もあります。臨床経験ですが、1時間の対面相談だけでも2万時間以上の面接を重ねてきました。 一緒に悩みの解消を考えていくカウンセリングスタイルが基本です。市町や学校単位で不登校を減少させる取り組みも18年ほど取り組んできました。クライエントさんの意志を尊重しつつ、必要とあれば、PTSDの解消にはEMDRを用いたり、アクティブテクニックとして認知行動カウンセリングを用いたりします。