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被災後のこども|「自己治癒遊び」としての「地震ごっこ・津波ごっこ」(2)

地震ごっこのような遊びを、「トラウマ遊び」という言い方ではなく、「自己治癒遊び」と呼びたいと思っていると述べました。

虐待体験のあるお子さんでも、いじめ体験のあるお子さんでも、プレイセラピィなどの治療の場面や、治療が進むにつれて、日常生活でトラウマを再演するような遊びを行うときがあります。そのようなときに、お子さんの心のケアで必要なステップは以下の通りです。

1.安全を確保する。
  虐待では、子どもの保護;いじめ問題では、いじめの環境に置かないようにします
2.リラックスさせる。

  抱きとめて、優しく触る;身体のマッサージ、鍼灸整体、動作法など
3.苦しみは必ず乗り越えられるという展望を与える。
4.不快な感情の表現を、安全な場で、信頼のおける人に受け止めてもらう。
  不快な感情
を表情などから読み取り、「何かいやな感じがあるのかな」
  「どこか心配かな」「いらいらするね」「悲しいね」「つらい顔しているね」
   などと言葉で代弁する
5.こどもの好む活動、自由な遊びの中で、不快な感情表現を促す。

以上のようなステップがあります。このステップには、先もありますが、ここで、覚えておいていただきたいのは、とくに、1,2が済んでいないと、3,4,5のステップには進めないことです。

少なくとも、子ども同士が交わるような場があり、その表現が許され、大人が危険でないように配慮しつつも、基本的に禁止しないときに、5のステップに進みます。このときに成立するのが、津波ごっこや地震ごっこなどの「自己治癒遊び」なのです。

なお、表現が大事だと言って、無理に表現を促すのは百害あって一利なしです。自然に遊びなどで表現が出てきたことに寄り添うことが大事なのです。

幼い場合ほど、この遊びは早く起きます。幸か不幸か、東日本大震災のときは、年度末に起きました。ですから、お子さんたちが交流を始める新年度から、いわゆる被災地域以外で起き始めるだろうと予測していたのです。

なぜなら、東日本大震災の激甚災害地区は、3月中は、まだ、1,2のステップの確保が十分とは言えないようでした。避難所が設置され、子どもの遊べるスペースが確保されるころ、学校や保育園、幼稚園が再開し、互いが遊びで仲良くなろうとするころに、この遊びが始まるのだと考えていました。これから先起きて来ることを半歩先で示すのが、当時のHPの役割であると思っていました。そこで、この原稿のリリースは2011年4月1日と定めて準備していました。

東日本大震災2011年11月気仙沼 撮影:小林正幸

ところが、現実は予想外でした。災害から1週間で、都内の幼稚園の卒園式や、アメリカの日本人の幼児たちが、数日以内にこの遊びを始めていたのです。

なぜなのでしょうか?

東日本大震災のときに、アメリカの幼稚園で、日本人の幼児の間に津波ごっこが流行ったことは前の記事で触れました。親御さんたちは心配でテレビにくぎ付けでした。日本よりも見られるテレビは限られます。しかも、海外のメディアの津波報道では、日本で流れたものよりも恐ろしい映像が繰り返されました。親御さんたちは、情報が少なく、その上、悲惨な情報に接したので、さまざまな形で知り合いに連絡を取ります。心配で心配でたまりません。

幼ければ幼いほど親御さんの心配する姿に傷ついていたのです。親御さんは祖父母や知人の心配をしています。大人がいっぱいいっぱいなので、家ではそれが表現できません。しかも、アメリカでの日常は平穏そのものでした。安心、安全に満ちていました。心を痛めて幼稚園に赴いた日本人の子どもたちは、安心できるいつもの幼稚園で一緒になります。そこは安心した空間でした。そこで、自宅で感じた恐さを、ごっこ遊びでスリルに転換して、加わったストレスを発散するかのようにこの遊びをします。その結果、幼児が園で一緒になったときに、「津波だー」「流れたー」「死んだー」と叫びまわる遊びを繰り返すようになったのです。

一方、これとは逆に無関心を装う子どもたちもいます。
「地震恐かったね」
「別にー。ニュースばっかりでつまらなかった、テレビ」「うんうん」

このように、不快感を外に表さない子どもたちの方が、心の傷はもっと深刻かも知れないのです。あの映像を見ていないわけではありません。でも、大人が心配のあまり、気持ちを無理に引き出そうとしないでくださいね。あの子は大丈夫などと思わないことが大事なのです。

熱心な学校の先生たちにお願いです。

このようなお子さんに、地震の大変さを伝え、防災教育をしなきゃなどと、早い段階から考えないようにしてください。地震が恐いと表現ができないでいる子どもたちなのですから。映像を見せて、「教訓にしなさい」と言われた子どもが、翌日から頻尿が始まった話は、東日本大震災のときに日本の各地から手元に届いています。

自己治癒遊びのときに大事なことは一つです。
支援者の皆さんや学校の先生には、危うい遊びに発展しないように、周囲で上手に場をコントロールしてほしいのです。

このようなときに、どのような声をかけ、何に配慮をするのかについては、今後、以下のお話をしますので、その中で具体的にお話しします。
幼いお子さんでは、「危険なことをする」ことや、小学生では「何度も出来事の話をする」「出来事の遊びを繰り返す」ことなどがありますで、そこで細かい関わりの工夫をお伝えします。

ただ、今回、コロナ禍で新しい問題があると思います。子どもの傷つきを自身が癒そうとするとき、子ども同士が絡み合ってダイナミックに遊ぶような「自己治癒遊び」は、安全の保障上、難しいという現実があります。物理的な距離を取りながら、どう「自己治癒遊び」を保障するのか…そこに難しさがあります。

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ABOUT US

cocorocare大学教授・NPO法人元気プログラム作成委員会理事長
NPO法人元気プログラム作成委員会理事長。カウンセリング研修センター学舎ブレイブの運営をしています。大学で教育臨床心理学を教えています。教育相談の面接を35年以上してきました。 公認心理師、臨床心理士、学校心理士、カウンセリング心理士(認定カウンセラー)です。カウンセリング心理士のスーパービジョンの資格もあります。臨床経験ですが、1時間の対面相談だけでも2万時間以上の面接を重ねてきました。 一緒に悩みの解消を考えていくカウンセリングスタイルが基本です。市町や学校単位で不登校を減少させる取り組みも18年ほど取り組んできました。クライエントさんの意志を尊重しつつ、必要とあれば、PTSDの解消にはEMDRを用いたり、アクティブテクニックとして認知行動カウンセリングを用いたりします。