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被災後のこども|「自己治癒遊び」としての「地震ごっこ・津波ごっこ」(1)

「禁じられた遊び」という映画をご存じでしょうか?ギター曲の中では、比較的簡単に弾くことができる美しい曲で、この映画の主題の音楽の方を知っている人の方が多いと思います。1952年の作品で、ルネ・クレマン監督の名作です。

禁じられた遊び

時代は第二次世界大戦。少女ポーレットは、ドイツ軍の戦闘機の機銃掃射で両親が死んでしまいます。転がり込んだ農家で、ポーレットはかくまわれ、そこで、自分よりも年上の男の子ミッシェルと出会います。ポーレットはミシェルと‘禁じられた遊び’である十字架集めに夢中になります。そして、大人にとって理解できないこの‘遊び’をきっかけに、ポーレットとミシェルは引き離されます。大人への不信とポーレットを失う絶望で、ミシェルは集めた十字架を泣きながら川へ投げ込みます。そしてポーレットは尼僧に連れてこられた難民収容所の雑踏の中に「ママ、ママ」とつぶやきながら消えていくシーンでこの映画は終わります。この遊びそのものが、ポーレットの「トラウマ遊び」だったと思います。

「トラウマ遊び」の名称は、いつから使用されるようになったのかは分かりませんが、「トラウマ」の言葉が新聞に躍るようになったのは、阪神淡路大震災のときからでした。それまでは、一般にはそれほどは知られていない言葉でした。

この言葉が使われる前に、心理の専門家たちがこのような遊びが、被災地を中心に起きることを発見したのは、北海道で奥尻島が津波に遭った北海道南西沖地震ときのことです。

当時、北海道教育大学のチームが、奥尻島に渡って、子どものストレスについて丁寧な追跡調査を行いました。そのときに、このような遊びがあることを見出したのです。けれども、東日本大災害が起きる1年ほど前に、「津波ごっこ」をネットで検索したのですが、そのときには、ヒットしたのは、2件だけでした。どのような遊びであるのかの説明も皆無でした。

しかし、阪神淡路大震災のときには、電話相談で被災地の心理相談を受けていましたし、そのときには「地震ごっこ」が流行ったことも伝わっていました。全ての地震ごっこが危険とは限りません。ただ、そのときに聞いたのは、神戸エリアから伝わってきた中学生の場合の話でした。その「地震ごっこ」は危険なものでした。学校で椅子を山高く積み上げ、一挙にそれを突き崩すというものであったようです。このような場合は、止めなければなりません。

東日本大震災で一番早く「東日本大震災特設:先生のためのメール相談」のHPに、「津波ごっこ」についての相談を受けたのは、1週間もしないうちでした。しかも、相談の主は、アメリカの幼稚園でした。揺れすら感じなかったはずのアメリカだったのです。それは、日本人の幼児を預かるニューヨークの幼稚園長さんからのものでした。

まだ、被災地は大変な時期で混乱の中にありました。最初は、なぜ、そのようなことが遠いアメリカで、日本よりも先に起きたのかは、すぐには分かりませんでした。この理由は、別に触れたいと思いますが、子どもたちが集団で集う場で、安心ができ、安全だという感覚が増えたときに、この遊びは行われるようになります。当面は直接の震源地の熊本、大分よりも、その周辺部で強い揺れを感じたお子さんたちの方が、先に「地震ごっこ」のような遊びを行うのです

東日本大震災のときも、都内の余震が激しいうちや、大人たちが緊張しているときには、地震ごっこや津波ごっこなどの遊びは行いません。しかし、それが許される安心で、安全な空間が確保されると、周辺から被害の大きかった中心部に向けて、これらの遊びを自然に行うようになるようなのです。学校が再開され、余震が落ち着き、大人たちが余裕が出たころに、そのような遊びが自然発生的に数多く起きることが考えられます

小学校でも数多く見受けられた遊びでした。子どもたちが勝手に考えだす遊びですので、いつも同じ形の遊びをするとは限りません。たとえば、東日本大震災で、都内で流行ったのは、次のような遊びです。休み時間に、誰かが、「震度3」と叫ぶと、椅子を掴んでガタガタとそれなりに揺らし、「震度6」と叫ぶと、思い切り左右に大きく揺さぶるというような遊びが行われていました。

「地震ごっこ」や「津波ごっこ」などの遊びの意味ですが、基本は「子どもの心のケアを自分で行っている」と考えてほしいのです。子どもは、安全や安心が確保されると、子どもが抱えこんでいる恐怖や不安を表現するようになります。心のひとつの表現方法として、これらの遊びを行うようになることも多いのです。子どもは,遊びや,それに伴う会話を通じて,さまざまな感情や考えを表現し,少しずつ心の安定を取り戻していくのです。

ですので、これらの遊びを、「トラウマ遊び」という言い方ではなく、「自己治癒遊び」と呼びたいと思っています。

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ABOUT US

cocorocare大学教授・NPO法人元気プログラム作成委員会理事長
NPO法人元気プログラム作成委員会理事長。カウンセリング研修センター学舎ブレイブの運営をしています。大学で教育臨床心理学を教えています。教育相談の面接を35年以上してきました。 公認心理師、臨床心理士、学校心理士、カウンセリング心理士(認定カウンセラー)です。カウンセリング心理士のスーパービジョンの資格もあります。臨床経験ですが、1時間の対面相談だけでも2万時間以上の面接を重ねてきました。 一緒に悩みの解消を考えていくカウンセリングスタイルが基本です。市町や学校単位で不登校を減少させる取り組みも18年ほど取り組んできました。クライエントさんの意志を尊重しつつ、必要とあれば、PTSDの解消にはEMDRを用いたり、アクティブテクニックとして認知行動カウンセリングを用いたりします。