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災害時に寄り添う|支援者が寄り添うとは(3)

この記事は、もともと教師向けに書いたものです。東日本大震災後1ヶ月後の2011年4月13日に「先生のための電子メール相談」のHPのコラムで書き、熊本地震後に書きかえています。今回は、それを元に、コロナ禍を意識して再構成しました。
今、私たちは、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)と称する災害の真っただ中にいます。教師など支援者としてお子さんに関わるとき、目の前のお子さんのことをどう理解し、どのようなこころ持ちで、どのように関わろうとしたらよいのでしょうか。この記事は、生活を共にしながら日常的に子どもを支える教師などの子どものお近くにいる支援者に向けたものです。

学校で大勢のお子さんたち寄り添うのは…誰なのか

「私は学級全員を見ているんです」との言葉を学校の先生から聞くときがあります。自分が責められたかのように感じた学校の先生が、思わず呟く台詞です。全員をしっかり見て、理解することは確かに不可能です。

災害時には学校の先生も、避難所での支援者も、一人で多くのお子さんを見ています。一人ひとりを見ると言っても、心理のカウンセラーではないので、「不可能だ」との思いが起きてきます。確かにそうかも知れません。

災害では、被災の状況はさまざまです。お子さんの様子もさまざまです。

被災地で先生や支援者が関わりに困るのは、さまざまなお子さんがいて、あの子も気になる、この子が気になる状態かも知れません。そして、全員に共通に通じる教育はどのようなものなのかに困惑している先生のお話を、2011年3月の段階で聞きました。災害では、皆が一様に大変なのではないのです。

ユニバーサルデザインの発想をー一番辛いお子さんに活動を合わせる

ユニバーサルデザイン教育は、特別支援教育から提唱されている考えです。通常の学級に「発達障がい」と呼ばれるお子さんがいます。ど の学級にもいる特定の個性の強いお子さんのことです。知的には問題がないのですが、情報の取り込み方や、情報の処理の仕方が、他のお子さんと違うお子さんです。そのお子さんに合わせた教育を行うと、全てのお子さんにとっても理解しやすい教育になるという考え方がユニバーサルデザインなのです。

心のケアでも同じです。一人ひとり違っています。ですが、一番、辛い思いをしているお子さんを見出し、そのお子さんを、まず、徹底的により添って理解するように心がけるのです。

その一番辛い思いをしている一人のお子さんに丁度良いレベルに、こころのケアの文脈で教育活動を合わせていくです。これができると、全員の心をケアできる教育活動になる、こう言いたいのです。

感情を言葉で代弁すると、その子の大変さが分かる

前のコラムで、感情に注目し、それを言葉にする重要性を述べました。そのような関わりを続けると、【場面】と【行動】や【感情・身体の状態】との関連が見えてきます。この繋がりが簡単に理解できるお子さんは、心理的に健康です。

辛い体験をしても、全員が後で大変になるわけではありません。もちろん、辛い体験を味わえば、それだけリスクが高まります。ですが、その後の予後を良くするのは、その場面、場面で、周囲が「本人がそう感じてよい」「そう感じるのは当然だ」と思えるような関わりをしてもらえたかどうかです。感情を表現すれば、周囲から、その気持ちを受け止める関わりをされやすくなります

泣いていれば、抱きしめて、「悲しいねー」と言うのは簡単です。怒っているようであれば、「イライラするんだ」「嫌なんだよね、◎◎が・・・」と言って関われます。

そのように関わってもらえれば、辛さがそこで下がります。これを繰り返すことが、先々のダメージを残さないで済むようにしていくのです。

東日本大震災気仙沼       撮影:小林正幸

第二の原則:場面と感情とが一致ないお子さんに注目する

ですので、一番注目をしてほしい子どもは、その場面で、それは妙だ・・・と思える表現をしていることです。目の前の【場面】にそぐわない行動や感情や身体の状態にあることです。どう声をかけたらいいのか迷うお子さんが、とても辛い状態になっていると考えます

前のコラムで、「ぼーっとしている」「無表情」が感情表現で一番危ういと述べました。

この場合、何を感じているのかを周囲に感じさせないのです。そのために、放っておかれがちです。したがって、ケアされることが少なくなります。

「笑っても目が笑っていない」なども、その一つの表れです。瞬間、場面に行動を合わせても、心がそこにないように感じます。表面だけ合わせているのです。恐い映像を見ても平気というのも、先々が危ういと考えます。「いつもニコニコ」も心配です。東日本大震災後のテレビでは、お子さんをドキュメタリータッチで放送しているものがよくありました。映像上、その場面だけを切りだしているのであれば良いのですが、本当にニコニコでした。一日中あの調子でニコニコであると、本当に心配だと思いました。

また、場面に無関係に、「急に怒り出す」「急に恐がる」「急に泣き出す」などのことも、場面にそぐわない感情表現です。その面では要注意です。ただ、安心感が得られて、こころのケアが少し進んだ段階になると、ボーっとしていた子どもやニコニコしていた子どもに変化が生まれます。不快な感情の表現が出てきます。このお子さんは、その段階で、先生の目から、「大変な子」と思ってもらえるので、時間が経てば、学校生活の中で回復していきやすいように思えます。

表現させることが重要ではない。どう応じるのかが重要です

また、別の災害では、支援者の関わりで気になっていることがありました。

子どもたちに絵や文章で、気持ちを表現させようとする関わりでした。被災後、数ヶ月以内のASD(急性ストレス障害)の段階で、場面や時間を制限しないで気持ちを引き出すことは行ってはいけません。

とくに、外部の支援者が被災地に入ってこれを行ってはいけません。安心して一緒にいる誰か、自分の事情を分かってくれている誰かに、自分が伝えたくて、伝えてくる場合は、その辛かった感情を言葉で表現しながら、「苦しかったね」「嫌だったね」などと優しく受け止めることは意味があります。自分を責めているようなら、「あなたは悪くないから」「悪いのは自然だから」と優しく諭される必要があります。ぼくはだめだ」と思っているようなら、「あなたはあなたでいて頂戴。それが嬉しいんだよ」などと伝えることは意味があります。

ここで重要なのは、その表現に向き合い、どう受け止めるのかなのです。しかも、そのための条件は、次に限られます。

1.問わず語りに子ども自らそれを表現すること
2.聞き手が日常的に接する相手で、子ども自身が安心ができ、信頼関係のある相手であること
3.感情表現をどっしりと安定した気持ちで受け止める安心感を聞き手が持っていること
4.感情表現を言葉で表現するのを手伝いつつ、子どもが訴えたいことの中心が洞察できること
5.子どもを上手に諭すことができること

もうお分かりだと思います。外部からの支援者は、どれほど技量があっても、一定期間すれば去っていく存在です。5つの手順のうち、最初の条件が満たされないのです。短期間で去っていく相手に、1の「問わず語りに語りかける」ことは通常起きません。関係の薄いそのような相手に語りかけるお子さんは、相当に不安定か、発達障がいの一部のタイプです。トラウマ化しやすいお子さんで、そのようなお子さんには、3~先の手順は行ってはいけないのです。

では、現地の被災者の場合がこれらができるかといえば、3の 感情表現をどっしりと安定した気持ちで受け止める安心感を聞き手が持っていることが本当に難しいのです。ご自身に自覚がないことも多いのですが、普段なら何でもなくできることができなくなることが想像以上に起きてくるものなのです。

被災後早い段階で、絵を描かせる、文章を書かせて、心情を引き出そうとすることは、避けていただきたいのです。一方、学校の先生には、子どもが問わず語りに辛かった場面を語ることがあると思います。長い時間、一緒に生活することで、関係の結びつきがあるからです。その場合は、この記事の3~5を行っていただきたいても良いと思います。ただし、発達障がいのお子さんなどで、拘りの強いお子さんには、4の手順はあまり行わないようにしていただければと思います。

いずれにせよ、災害終息後の数ヶ月間、復旧の段階では、こちらが勧めたいのは、文章化や絵による表現を促すことは慎むということです。他方で、子ども自ら描くもの、書くものを制限する必要はもちろんありません。それを見せてくれたときには、問わず語りに伝えてくれたわけですから、ありがたく鑑賞して、感想を分かち合っていただければと思います

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東日本大震災の折、オランダの「日本へ希望財団」様からのメッセージ(第3報)日本へ希望を財団 in Holland 理事長  大橋江里さまから送られてきた絵の一つです。日本へ平和を…… 怖がらなくても大丈夫だよ、地球は壊れたりしないから 心の中に平安があれば、人は恐れる必要はないと思います 皆の悲しみよ無くなれ…   Maisha (マイシャ:当時8歳)」

災害時に寄り添う|支援者が寄り添うとは(1)

災害時に寄り添う|支援者が寄り添うとは(2)

災害時に寄り添う|支援者が寄り添うとは(4)

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cocorocare大学教授・NPO法人元気プログラム作成委員会理事長
NPO法人元気プログラム作成委員会理事長。カウンセリング研修センター学舎ブレイブの運営をしています。大学で教育臨床心理学を教えています。教育相談の面接を35年以上してきました。 公認心理師、臨床心理士、学校心理士、カウンセリング心理士(認定カウンセラー)です。カウンセリング心理士のスーパービジョンの資格もあります。臨床経験ですが、1時間の対面相談だけでも2万時間以上の面接を重ねてきました。 一緒に悩みの解消を考えていくカウンセリングスタイルが基本です。市町や学校単位で不登校を減少させる取り組みも18年ほど取り組んできました。クライエントさんの意志を尊重しつつ、必要とあれば、PTSDの解消にはEMDRを用いたり、アクティブテクニックとして認知行動カウンセリングを用いたりします。