「小学校の先生ができること」の記事は、東日本大震災発生時に記載したものです。一連の記事は、子どもに強いストレスがかかった場合の対処方法を年齢段階別に示し たものです。これは、「小学生の子ども」向けの記事をリライトしたもので「出来事の再来に怯える」です。すべての子どもに関わる教育の専門家である小学校の先生向けです。災害時以外でも、生かしていくことができると思います。
たとえば、事故や事件に巻き込まれてしまったとか、大病で急に手術をするようになったような場合で、そのことが起きて数か月以内の関わりです。
この記事は「サイコロジカル・ファーストエイド 実施の手引き 第2版」(Psychological First Aid ; PFA)を参考に、支援者である学校の先生に分かりやすい表現にしています。
【状態】 何かの拍子に、とても恐がる様子を見せる。
東日本大震災で津波被害のあったある小学校では、災害があった3月から3か月ほど経った時点で、6月の梅雨の時期に、五月雨の強い雨があったとき、校庭が雨水に覆われて見る見る溜まっていくのを見ていた小学校高学年の女の子が、「津波だー津波が来たー!」と叫び始めたとの話を聞きました。
また、中越地震から3か月ほど経ってのことです。お会いした現地の精神科医や心理士たちは、口々に「ヘリコプターが来ると窓がびりびりと振動するので、それが嫌でした」「恐くてたまらなかったんです…」「頭では恐がることはないと、分かっているんですけど…」と、語っていました。
何かの拍子にとても恐がることは、早い段階から起き、問題が去っても生じやすい症状です。
この症状は、その事態が終了して少ししてから主に起きてくるものです。2021年6月時点の現状で、新型コロナウィルス感染症のパンデミックの終息が見えません。現状では、通常はこの症状は現れにくいように思います。ウィルス感染者が身近に感染者がいない場合では、なかなか実感ができないかも知れません。それだけ、脅威を直接に感じることは少ないようにも思います。
ただし、自身が罹患した場合で死を意識したような場合や、家族や重要な知人が罹患して闘病で苦しんでいることを見た場合や、家族が不幸にしてお亡くなりになった場合などでは、この症状が現われてくるかも知れません。
全国のこの感染症による感染者は、累計76万7906人とされ、累計死亡者数も1万4千人に近くなっていて、すでに尋常ではない数となっています。
東日本大震災では、死者 行方不明者は1万8425人(「関連死」を除く)です。一方、Covid-19では、6月9日現在で累計1万3855人となり、それに迫ります。人口比では、全国の平均は、1.81%ですが、一番多い徳島県で3.85%と全国の2倍の出現率になっています。福島3.31%、福井3.21%、兵庫が3.08%と3%を超えている県もあります。
【関わり】どっしりと安定した態度で関わります
恐怖や不安や緊張、そして怯えに関わるときには、どっしりとした態度、姿勢を保ちます。余裕を持って、ほんわりと微笑んでいても良いくらいです。近寄るときも、余裕を持ってゆったりと近づきます。
出来事を思い出すきっかけは何かを探します。
特定の振動や音、特定の場所や、臭いや時刻など、きっかけのなる刺激を探します。
振動や音の例
振動…ヘリコプターに共鳴する窓ガラス音、工事の振動 など。
大きな音…豪雨災害時の雷鳴。地すべりの音。
場所の例
辛い体験に出会ったときにいた場所を避ける。
臭いの例
辛い体験をした場所の匂い…消毒薬の臭い、など。
時刻、記念日の例
辛い体験をした記念の日や時刻。
都内の小学校の話です。2012年の2月頃から急に保健室を訪れる子どもが増えました。普段は元気な子どもたちでした。
養護教諭の先生は、ふと思いあたって、1年前の出席記録を調
べたのだそうです。すると、次のことが分かりました。
保健室に急に訪れるようになった子どもたちは、1年前の2011年3月11日の東日本大震災が発振したその日、いずれも保護者が
都心の勤務先から家に戻れず、子どもだけで一晩
家で過ごしたと分かったのです。
そして…2012年の3月11日が過ぎると、その日までが
嘘のように教子どもたちは教室に戻っていきました。
優しく包むように声をかけます
話のテンポはゆっくりと、低い声で、のんびりとしたふうに、ゆったりとした口調で声をかけることです。気持ちとしては包むように声をかけます。
にっこっりと微笑んでから、本人の名前を呼びましょう。
辛い出来事は、今、起きてはいないことを確認します
その大変な出来事と、きっかけとなる今目の前の刺激との違いを区別するように手伝います。
今、ここを大切にします。
「今、何か見えているのかしら?」と声をかけます。
「これが何か分かるよね」と、タオルやぬいぐるみやボールを見せて、「これ受け取れる?」と、それを受け取るように声をかけて、柔らかく投げて、キャッチボールのように、少しの時間、優しく投げ合ってもよいでしょう。
「少し散歩しようか」と連れ立って歩き、「〇〇があるねぇ」などと、目に映るいろいろな物に注意を向けて話かけたりします。
本人が過去の何かの記憶に怯えている感じがあるときは、今、どこにいるのかの確認をするときもありますが、普通はそこまでのことはないでしょう。
「今、どこにいるんだっけ?」「先生は誰かな?」
「今は、そのときと違うよね」「何かを思いだしちゃったんだよね」
「これ(刺激;音、臭い、場所、時刻)は、そのときとは違うみたいだよ」
過去の記憶の不快な刺激に向き過ぎて怯えを引き出しているのを、外側の刺激に向けさせるために定位反応を用いています。泣いている子どもを鎮めるためにもこの方法は「気そらし」として用いられることがあります。ただし、幼い段階では、感情を鎮めて静かにさせるためだけに、これを多用するのは望ましくありません。自ら感情を鎮めることを学ぶ必要があるからです。
定位反応(定位反射):生体は,その外部に何らかの刺激が呈示されると,そちらの方向に注意を向けるような行動をとります。このような反応を定位反応(orienting response)または定位反射(orienting reflex)とよびます。「おや、何だ反射」などとも言われます。
安心感を増す言葉をかけてください。
そして、
「今は、大丈夫。先生と一緒にいるよ」「皆も一緒にいるよ」
と声をかけ続けます。
怯えが消えたら、安心が戻ったことを喜びます。
「よかった。恐いのが消えてきたみたいだね」
「恐いときは、恐いって言っていいからね」
「恐いことは、だんだん減っていくからね」などの言葉をかけます。
自分で思いだしていることが分かるときの関わり
「嫌だったこと(地震、津波)を思いだしていたんだね。」
「思いだしている映像があるの?何か見えるのなら、それを映画館の映画の画面から離れるに遠くから見られるかなー。小さくできるかなー」
「これは地震(津波)じゃないんだよ。思い出しているだけなんだよ」
「今は安全だよ・・・そう自分に言いきかせると、きっと良いと思うよ」
出来事に関する報道は、見ないように伝えます。
保護者さんにも、この面での配慮をお願いしてください。
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定位付け、は、災害だけでなく、人生のさまざまな場面で大切な手法かと思います。支援者がこの方法があることをもっと知ることを現場で広げていきます。
久保先生。熊本の支援ではお世話になっております。おっしゃる通り、「定位付け」の言葉を示していただきありがとうございます。「定位付け」は、小林の解説の中で、「定位反応(定位反射)を使って、今の現実を意識化させること」を示すことです。その通りだと思います。そもそも「定位」には、自分のおかれた状況を時間的,空間的に正しく位置づけ,これと関連させて周囲の人や対象を的確に認知すること。方向づけ,見当識,指南力とも呼ばれているようです。また、精神医学の分野では,定位する能力が失われることを失見当,見当識喪失といい,現在が過去の出来事の真っ最中と思ったり,病院にいるのに自分の職場にいると思ったりするなどの現象はこの例であるとされていますね。見当識を取り戻すための「定位反応(定位)反射」ということなのです。確かに応用範囲が広いので、支援者は身に付けておきたいものだと思います。ありがとうございました。