「児童・生徒が学校に行かない・行けない」問題の研究は第二次世界大戦前から始まります。それは、Broadwin(1932)の研究で,彼は、怠け(truancy)の亜類型としてとらえ,強迫神経症または強迫的タイプの神経症性格に起因するとしました。これが後の登校拒否の概念に相当すると考えられています。これらの問題について,神経症的メカニズムを強調し,従来の怠学と精神神経症的障害とを区別したのは,米国のJohnsonら(1941)による「学校恐怖症(school phobia)」の研究です。
わが国では,高木ら(1959),佐藤(1959),鷲見ら(1960)などの行動異常児研究から始まり,「登校拒否(school refusal)」や「不登校(non-attendance at school)」に関する研究が発表されるようになりました(稲村,1994)。
その後、小林(1994)は「不登校」の関連概念を整理しました。そして、「不登校」を「登校をしていない現状,態度,症状などから理解しようとする立場から生じてきた」とし,「不登校の原因や心理機制,症状形成・経過から理解しようとする立場とは一線を画する」としました。その観点から言えば,より広義には,「学校に登校しないすべての現象を指すと理解でき」るとしたのです。
これに対して,「あまりにも概念が拡散され過ぎてしまって,『長期欠席』と同義語になってしまってはナンセンスである」(若林・曽根,1992)との声もありました。しかし、小林(1994)は,「現代の不登校現象が,非行領域,怠学領域,神経症性障害領域の境界を明確に分けられない境界領域で拡大し,一般児童・生徒との境界が不分明な不登校傾向も増大」していることを指摘しました。そして、「その状況を切りとるために『不登校』という用語の存在意義がある」としたのです。
このような論議があったのですが、その後、この「不登校」の名称が,それまで使われていた「学校ぎらい」に代わって文部科学省の学校基本調査で公式に用いられるようになったのは,平成10年度(1998年度)からのことなのです。
引用・参考文献
※Broadwin,I.T.:A contribution to the study of truancy Am.J.Orthopsychiat, 2,253-259,1932.
※Johnson,A.M.,Falstein,E.I.,Szurek,S.A. and Svendsen,M.:School phobia Am.J.Orthopsychiat.11,720-711,1941.
※佐藤修策:神経症的登校拒否行動の研究−ケース分析による 岡山中央児童相談所紀要,4,1-15,1959.
※高木隆郎・川端利彦・田村貞房・三好邦夫・前田正典・村手保子・澄川智:長欠児の精神医学的実態調査 精神医学,1,403-409,1959.
※稲村博:不登校の研究 新曜社,1994.
※若林愼一郎・曽根靖貴:「登校拒否」はいまどうなっているのか−最近のデータをもとに− 児童心理4月増刊号,587,102-112,1992.
*小林正幸:第10章不登校 橋口英俊・稲垣佳世子・佐々木正人・高橋惠子・やまだようこ・湯川良三(編) 児童心理学の進歩1994年版 金子書房 Pp.256-273,(1994)
※小林正幸・早川恵子・島崎由貴・齋場悠紀子・河内絵莉子・金慧昤・副島,賢和「理由別長期欠席児童生徒の出現率の推移から見る不登校問題 : 不登校問題の現状と課題」東京学芸大学教育実践研究支援センター紀要 4, 1-7, 2008-03-31 http://ci.nii.ac.jp/ncid/AA12038480
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